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院長コラム

「シスペラ」 新たな医療用美白剤2020.12.23

日本の美容皮膚科では長い間メラニン合成を強力に抑える美白剤としてハイドロキノンが使用されてきました。シミやそばかす、くすみや肝斑など、メラニンが蓄積されることによる症状に対して塗り薬として使用されています。

しかしその刺激性から皮膚に体質的に合わない方も比較的多く、そのような方にはその代用品として「ルミキシル」などが勧められてきました。ルミキシルは確かに低刺激で、かぶれ症状を起こす人はほとんどいないというメリットは大きくハイドロキノンの代用品として定番化しました。

ところがハイドロキノンを上回る効果と当初は謳われたルミキシルですが、実際の現場ではハイドロキノンを上回る効果を感じることはあまりなく、その他にめぼしいハイドロキノンの代用品が見当たらないというところが大きかった印象があります。

待望の新薬「シスペラ」

そんな中、ハイドロキノンに変わるメラニン合成を強力に抑える成分を配合した新製品が登場しました。

スイスのサイエンティス社が開発したシスペラ(Cyspera)です。

ルミキシルの発売以降、一般化したハイドロキノン代用薬剤はあまりありませんでしたので、久しぶりの新たな選択肢として注目度は発売前から業界内でも高い製品です。

主成分は システアミン

シスペラの主成分はシステアミンという物質です。あまり聞きなれない成分だと思いますが、人体中にもともと存在する最も強力な抗酸化物質の一つと言われ、母乳の中にも高濃度で認められるようです。

システアミン分子

ヒトに対する使用はアメリカFDAにも承認されています。美容室などで使用するパーマ液の中でも以前はこの成分を含む製品が良く用いられていました。

1960年代にChavin博士率いる研究者グループは、システアミンが極めて強力な脱色作用を持ち、システアミンを黒い金魚に注射すると肌が白く変化することを見いだしました。

そしてその結果受けて、1968年Pathak博士とBleehen博士の率いる別の研究チームが、注射ではなくシステアミンを塗ったとしても脱色治療に有効であることを発表しました。皮膚の脱色にはハイドロキノンよりもシステアミンのほうが効果が高い可能性があることについてもその時点で言及しています。

しかしこのような発表があっても、すぐにハイドロキノンに替わる美白外用薬としてシステアミンを主成分した製品が出現することはありませんでした。それはシステアミンという物質のある特性にありました。

システアミンの「スカンク臭」

実際はすぐにシステアミン配合の美白剤の開発は着手されたようですが、うまく進展しませんでした。

システアミンは空気に触れるとすぐに酸化し赤く変色してしまいます。変色したシステアミンは脱色作用自体も失われるばかりか、強烈な「スカンク臭」を発するようになると言います。

化学の表現で不快なニオイのある物質に対して「腐卵臭」や「刺激臭」「アンモニア臭」などの様々な表現はこれまでもありましたが、この「スカンク臭」というのは正直初めて聞きましたし、実際にスカンクのニオイを嗅いだこともないので想像もつきません。とても不快なニオイがすることには間違いないのだと思います。

外用システアミン製剤の開発は進展せず、しばらく忘れ去られた存在となりました。

2000年代に入り再び注目

2000年代に入り、ハイドロキノンの刺激性等の問題から使用を制限する国もみられるようになり、再びシステアミンが代用薬剤の候補の一つとして研究されるようになりました。

そしてついに、2012年にスイスのサイエンティス社がシステアミン分子を安定化させるだけでなく、臭気を大幅に抑えるという技術の開発に成功したのです。これが後のシスペラの誕生へとつながります。シスペラは安定化したシステアミンを5%含んでいます。

作用機序ポイントが多彩

ハイドロキノンはメラニン合成経路の中でも、チロシナーゼという酵素を阻害するという部分にアプローチしています。ビタミンCはそれに加えて表皮角質層の酸化型メラニン(黒い色)を還元型メラニン(淡色)に変える働きもあります。

システアミンはメラニン合成経路の中でも様々な部分に作用ポイントがあると考えられており、かつビタミンC同様の酸化型メラニン還元作用も有しています。ビタミンCよりも皮膚への浸透効率は非常に高いため、これが即効性にもつながっているものと考えられます。

考えられている作用機序

多くの研究で外用継続によりシミや肝斑、色素沈着の改善が見られたという報告がなされています。

特徴的な塗り方

システアミンは皮膚への刺激性は比較的少なく、赤みやかゆみのような副作用はごくわずかです。さらに、以下の点を守ることでさらに副作用は極めて稀となります。

  1. 洗顔後、シスペラの塗布までは1時間以上あけること。
  2. 塗布から15分後に洗い流すこと。

特に①はこれまでの外用剤でも見かけたことのないような注意点ですが、メーカー側は強く推奨しています。メーカー側は「皮脂」がシステアミンの吸収効率に大きく関わるという認識を持っているようで、洗顔により皮脂が取られた状態の肌にすぐにシステアミンを塗ることでいつも以上に浸透してしまい、赤みやかゆみなどの副反応が出やすくなると考えているようです。

本当に日本人の肌でもこのような塗り方をしなければならないのかどうかは不明ですが、やや面倒な部分となりますので忙しい方や面倒くさがりの方には気になる部分になるかもしれません。

また、15分後に洗い流す根拠としては、非常にシステアミンは浸透の良い成分であること。それを考慮して15分後に洗い流す場合と3時間後に洗い流す場合の比較試験を行ったところ、効果の違いは見られなかったが、赤みやかゆみなどの副反応の発生率はやや上昇したというデータが元になっていますので15分後の洗い流しは厳守した方がよさそうです。

治療プログラム

まずは集中治療期間として1日1回、16週間続けていきます。約4ヶ月です。

ハイドロキノンのように細胞毒性はないとされていますので、「治療開始によりだいぶ色素は薄くなったけど、もう少し続けたい」という場合には16週を超えて治療フェーズを続けても問題はありません。

満足のいく状態まで到達した場合は、維持期として週に2回の外用を1日1回行っていく塗り方に移行していきます。

デメリットと注意点

シスペラのデメリットとしては以下のようなものがあります。

システアミンはマウスに大量に投与した場合に奇形リスクが疑われるという研究がかつてあったようですが、その後のラットの研究では奇形リスクは認められず、ヒトでの使用例で奇形の報告は現在のところありません。EU各国およびアメリカFDAにおいてもシステアミンの化粧品への使用も許可されております。

しかし、妊婦および授乳中の方での安全性試験はなされていないため、シスペラを使用することはできません。

また塗布直後に赤みや刺激を感じることがありますが、その多くは30分程度で消失する軽いものなので問題となることはあまりありません。

日本人での使用経験はこれから積まれていくことになりますが、日本人だけに見られる副作用というのが発生する可能性は極めて低いとは思います。より細やかな日本人がどのようにやや癖のある塗り方が推奨されるこの薬剤をうまく取り入れていくのかは、むしろ期待される点かもしれません。